前回、『深夜特急5 -トルコ・ギリシャ・地中海-』の感想をまとめました。
今回は『深夜特急6 -南ヨーロッパ・ロンドン-』を読んだので感想をまとめようと思います。
『深夜特急6 -南ヨーロッパ・ロンドン-』は、ブーツのかかとに位置するイタリアのブリンディジからイギリスのロンドンまでのお話になります。
以下は目次です。
- 第十六章 ローマの休日(南ヨーロッパⅠ)
- 第十七章 果ての岬(南ヨーロッパⅡ)
- 第十八章 飛光よ、飛光よ(終結)
ついに物語が終わってしまいます。
この本では、旅の終わりとどう向き合っていくのか、を葛藤する描写が多くみられます。
どう折り合いをつけて旅を終えるのか、何が決め手で旅を終える決心をするのか、楽しみながら読むことができました。
気になった個所を引用して紹介します
旅の未練
第十六章、最終目的地のロンドンを目指して、フランスのマルセーユへ到着した。
ふと鉄道駅の時刻表を見ると、パリへ九時間くらいで行けてしまうことを知る。
これまでの旅は最終目的地のロンドンに向かうことは変わらないが、自分の興味があった土地を選んで旅をしてきた。
パリまで行ってしまえば、ロンドンは目と鼻の先で、寄り道することはもうできません。
旅の終わりがすぐそこに近づいていると悟った著者の考えが印象的に思いました。
<ここが旅の終わりなのだろうか…>
私はヨーロッパの地図を頭に浮かべた。自分はいまイベリア半島のつけ根にいる。これから地中海を背に、私がいま向いている大西洋の方角へ一直線に進んでいけば、一日でパリに着くことになる。旅は間違いなくここで終わるのだ。しかし、私にはここが旅の終わりだということがどうしても納得できない。どこまで行けば満足するのかは私にもわからなかった。ただ、ここではない、ということだけははっきりとしている。ここではない、ここではないのだ。
深夜特急6 より引用
自由な旅は辞めるのも自由だ。
自由であるがゆえに、悩むのだと思う。
自分の心の落とし所は、自分が納得する答えを見つけるまで、腑に落ちるまで行動するしか得られないのかもしれない。
そんな風に思いました
旅の終わりの心境
第十七章、旅を終わってしまう現実を受け入れられず、イベリア半島の南西の果てに位置するポルトガルのサグレスまで来てしまった著者。
そこでの経験が素晴らしく、旅を終えてもいいかなという心境へ変わっていきます。
一艘、漁船が海に漂うように浮かんでいる。陽が傾き、海が輝きはじめる。テージョ河の水はプラチナのように輝いていたが、サグレスの海は細やかな金箔を敷き詰めたように黄金色に輝いていた。
ふと、私はここに来るために長い旅を続けてきたのではないだろうか、と思った。いくつもの偶然が私をここまで連れてきてくれた。その偶然を神などという言葉で置き換える必要はない。それは、風であり、水であり、光であり、そう、バスなのだ。私は乗合いバスに揺られてここまで来た。乗合いバスがここまで連れてきてくれたのだ…。
深夜特急6 より引用
美しい景色、おいしい食事、オーナーの人の良さに満足した。
ある日、朝の光が降り注ぐテラスで食事中「これで終わりにしようかな」という言葉で第十七章を締めくくっている。
フランスでロンドンを目指すことを一旦やめて、イベリア半島の端っこまで来た。
目的を達成することからは大分遠回りしたが、旅の落とし所を見つけることができた。
多分、自分の欲しい答えは自分が思ってもいない所で見つかるようにできているのかもしれない。
諦めないで心の声に耳を傾け続ければ、なにかのきっかけで見つかるのかもしれない。
焦らなくていい、遠回りしてもいい
旅の区切り
旅を終えるために、最終目的地のイギリスのロンドンへ向かった。
旅の前に約束した「ロンドンから友人に電報を送る」というミッションを終えたら旅を終えて日本へ戻ることになっていた。
が、最後の最後で電報について勘違いしていることに気づき、旅の終わりについて再度考え直した。
私はこの旅の終わりの場所をロンドンの中央郵便局と決め込んでいた。仮に他の場所で旅の本文は終わっているにしても、このロンドンの中央郵便局で電報を打たないかぎり、最後のピリオドは打てないと思い込んでいた。だが、その中央郵便局は電報など受け付けていなかった。
電報は電話があるところならどこからでも打てるらしい。ということは、ロンドンのどこからでも可能ということになる。いや、もうそこがロンドンである必要はないのかもしれない…。
クックック、と笑いが漏れそうになる。私はそれを抑えるのに苦労した。これからまだ旅を続けたって構わないのだ。旅を終えようと思ったところ、そこが私の中央郵便局なのだ。
深夜特急6 より引用
著者はアイスランド行きの船のチケットを購入して物語は完結した。
結局、この度の終わりがどんな最後だったのかは、読者にはわかりません。
路銀も少なくなったのでアイスランドに行って旅を終えたのか、どこかで仕事をして旅をつづけたのか、この旅の終わり方はどんな感じだったのか気になりますが、それは著者にしかわかりません。
そんな結末もいいなと思いました。
最後の気持ちは自分の胸の中にしまっておくのも、カッコいい終わり方だと思います。
旅の終わりがどんな気持ちになるのかは、自分で体験しなければわからないよ。
そんな著者からのメッセージなのかもしれません。
気になるけど、いい終わり方だと思う
【まとめ】旅の汐どき
今回は『深夜特急6 -南ヨーロッパ・ロンドン-』の感想をまとめました。
最後に著者談のメッセージが書かれています。
同じ旅でも、団体旅行などのように、初めから出発日が決まって帰国日も決まっているというのは、確かに味気ないところがあるでしょう。しかし、私のこの旅のように、出ていくのも自由なら帰るのも自由という長い旅には、思いがけない困難があります。いつ、どこで旅を切り上げたらいいのか、わからなくなってしまうのです。最後は、旅の終わりを求めて旅をする、という奇妙なことになりかねません。いや、その旅の折、私は明らかにその汐どきを探していたような気がします。
深夜特急6 より引用
『深夜特急6』は、旅をどう終えるかの心の葛藤が多くあったように思います。
著者の場合、ロンドンへ向かうことを一旦中止して、イベリア半島の端っこまで行きました。
そこでの体験が素晴らしく、この旅の落とし所だと悟っていましたが、もし見つからなかったらどうしていたのだろうと疑問に思います。
きっと「ここじゃない」と悩んで、あるかわからない心の落とし所を探し求めて旅を続けるのではないでしょうか。
でも、自分が満足するまで探し求めたらいいと思います。
これで良かった、いい旅だった、と思えるタイミングが旅の終わりなのかもしれません。
必ずしも綺麗な旅の終わりではないかもしれませんが、他者がどう思おうと自分が満足したのであれば、それが旅の終わりでいい、自分で決めたらいい。
そんなメッセージが込めれれているのではないかと、深夜特急シリーズを読み終えて思いました。
興味があれば読んでみてください。
最後まで読んでくれてありがとう
今回紹介した商品
・深夜特急6 -南ヨーロッパ・ロンドン-